降誕祭礼拝証詞　　 　　　2018年12月23日　　　　 　渋谷日本基督会
　

　クリスマスの喜び 　　　　　　　　　　　　細 田 篤 志
　　　　　聖書　ルカ伝 二章1〜20節

　税金を徴収するための人口調査が初めて行われた皇帝アウグスト（在位、前27-後14年）の時代は、「ローマによる平和」が実現した時代で、人々は武力によってすべての戦争を終わらせたローマ皇帝を「救い主」だと信じた。

　このような時代に、ユダヤのエルサレムから８キロほど南のベツレヘムという小さな町の馬小屋に「もう一人の救い主」がお生まれになった。ベツレヘムは、かつてイスラエルを統一して強大な王国を建てたダビデ王の出身地で、旧約聖書の預言者ミカにより救い主（メシア、キリスト）がダビデの子孫からベツレヘムで生まれると預言されていた場所であった。（ミカ書五章2節）

　救い主が生まれたという知らせを最初に聞いたのは、ベツレヘムの近くの野原で、夜に羊の番をしていた羊飼いたちであった。聖書では、羊飼いと羊の関係は神とイスラエルの民にも喩（たと）えられるが、羊と共に放浪生活をして安息日を守らず、税金も払わず、無学で貧しい羊飼いは、当時は罪人と蔑（さげす）まれる存在であった。彼等に与えられた「しるし」は、救い主である幼な子が布にくるまって飼葉おけの中に寝かしてあるのを見る、というものだった。

　なぜこの知らせがエルサレムの神殿に居る祭司ではなく、捧げ物すら持たない、無名の小さな人々である羊飼いたちに最初に告げられたのだろうか。ルカ伝の記者は、これによって当時人々がローマ皇帝によってもたらされたと考えた（武力による）平和、（戦争の終わりを告げる）福音、（皇帝の権威による）栄光が、もう一人の救い主（幼な子イエス）によって、全く異なった形で貧しい羊飼いを初めとしてすべての人に与えられることを示したのである。

　羊飼いたちへの御使いのお告げは、「今日ダビデの町にあなたがたのために救い主がお生まれになった」（10節）というものであった。お告げを受けた彼等はすぐにベツレヘムに急ぎ出向いて、幼な子を捜し当てそのことを人々に伝えたが、それを聞いた人々は不思議に思っただけだった。このようにして、救い主に最初に出会う喜びを得たのは、お告げを受け入れて、救い主を捜し求めて自ら主のもとに出向いた羊飼いたちであった。

　人間は、天地創造の始めより神の心を自分の心として生きるようにと神に似せて創造されたにも拘わらず、神以外の偶像に頼り、自分を中心に自分の為に生きる者となった。しかし、そのような罪に捉われた人間を救おうとして、二千年前についに神は人となってこの地上に幼な子の姿で生まれ、私たちに見える姿で、私たちが理解できる言葉で語りかけられた。それゆえその幼な子は「インマヌエル」（「我らのうちにおわす神」の意）と呼ばれるのである。（マタイ伝一章23節）

　日本から遠いユダヤの地で二千年前に起きた神の御子イエスキリストの御降誕の大きな喜びは、貧しいが信じる心を持つ羊飼いに最初に訪れた。しかしこの喜びは、この驚くべき出来事を心に留め、その意味を問い、自分の本来あるべき姿を探し求めて、救い主のもとに出向く私たち一人一人にもまた同じように今日訪れるものなのである。