渋谷日本基督会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2013年8月

　　　　森牧師証詞集から

　　　◇　「私は尾島先生を真に畏敬する」

　　　　 六月十八日の尾島先生生誕百年祭を前にして回顧の数々が限りなく湧い
　　てくる。社会的には伝道の面も含めて、実に御気の毒であったと云うより外
　　に辞（ことば）はないのであるが、内面的には、先生を識れば識るほど先生
　　の偉大さと悟りの深さとに今更に驚嘆させられる。誠に誠に尾島先生は、真
　　の神、主イエスに、こよなく恵まれた方であることを認めざるを得ない。

　　　ルッターの聖書中心という宗教改革以後五百年にして、今カルビンと謂わ
　　れたほどの尾島先生が、神中心聖書中心からキリスト中心に、神は光なりか
　　ら神は生命なりに、未来天国を現在天国に、創造者天の父を創造者キリスト
　　に、犯律法の罪を基督への不信の罪に、基督によりて天の父にの祈り求めを
　　基督にありて基督にの祈り求めに、等々数えあげたら限りない程、我等の馴
　　み深くあった歴史的基督教と全く相反する神学を持って居られた。もっとも、
　　先生は自分のものを基督教とは言われず「元始基督道」と称された。

　　　私はもと旧日基の一教会の長老であったが、聖霊は聖書の中心であるにか
　　かわらず、どうしても聖霊が呑み込めず、もう一人の長老と共に夜間、ノー
　　トを持って訪れたのが此の尾島先生の戦争前の牧師館であった。以後十年余
　　先生の御教導をうけたのだが、昭和二十六年六月六日、戦災後建てられた四
　　畳半一と間の病床に呼び出された。先生は自分の死の近いのを知って、私に
　　後事即ち伝道を受け継がせ、日本基督会を持続せしめるために私に教師試験
　　を施行されるためであったのである。私も此の突然の呼び出しには驚いたの
　　であったが、それにもまして、あれだけの立派な先生から弟子達は皆歴史的
　　基督教に逃げ去り、人もあろうに私如きものを、それに当てねばならなかっ
　　た、死を眼の前にしての尾島先生の御心境を推察して、今も胸の痛む思いが
　　する。試験の題は、ヨハネ伝八章とロマ書八章との間の一致点に就いて二、
　　三の問題を誘導されながら質問されたのであった。その答えは完全ではなく、
　　今だに質問の箇所さえ思い出すことが出来ぬ始末である。

　　　　試験が終ってから「まあ、よろしい」という一言を浴びせられて、按手礼
　　を受けた。そのあとで「ヨハネ伝八章とロマ書八章とが全く一致しているこ
　　とが会得出来たら、君は立派な基督信者なのだ」とゴールイン線を啓示され
　　た。当時は勿論のこと、尾島先生の入瞑された後、約十年間は苦しみ続けた
　　のであったが、漸くに昭和三十六年の秋になって、会得することが出来るよ
　　うになった。

　　　　此の悟りも尾島先生が死に直面しながら主イエスに祈り求められた結果で
　　あると識る私は、感謝に涙が湧く。それから後の日本基督会機関誌大好音の
　　表紙に「主イエスの恵にて我は我なるものなり」と告白し、絶えず「主イエ
　　スにあって主イエスに祈る」ことを主張することが出来るようになった。

　　　近頃エキメニカルとか一致とか、カソリックもプロテスタントと手を握つ
　　てなどと騒がしい程だが、何処に一致を見出そうとしているのであろうか。
　　肉の尾島先生が居られたなら何と批評されるであろうか。おそらく「三十年
　　昔を反省せよ。処女降誕を省いた信仰告白で一つの教会を形成しようとした
　　ようなプロテスタントが如何にして一致に達することが出来るか」と嘲笑さ
　　れるに相違ない。

　　　　その他尾島先生の伝道は、神道、仏教と竝べて現人神(あらひとがみ)信仰
　　の立場で縦横に論じ、「ユダヤ人は徴を求め、ギリシャ人は智慧を索む。さ
　　れど我等は十字架につけられ給いし・・・・キリストを宣ぶ」(コリント一、
　　一ノ二二)とポーロと同様に信仰、神学を兼備した、言葉を換えれば、キリ
　　ストロヂーと三位一体とを同時に悟らしめられたのであった。

　　　　誠に我等にとって二人とない良き師である。然し此の尾島先生も亦主イエ
　　スから遣わされた使徒なのであるから、我等も尾島先生に倣って、ヨハネ伝
　　十七章十八の如く、先生を恥じしめないような良き使徒とならなければなら
　　ないと今更心を新にする次第である。

　　　　　終りに、実に素晴らしい尾島先生の漢詩をのせて回顧の記念とする。

　　　　　実存基上帝　　創造始知新
　　　　　共産無心徒　　草方豈有真

　　　　　　　　　　　　　　　　(尾島)羔舟
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(1967.5.23)


　　　　　<次頁>
　　　　　　◇　「三位一体とキリストロジー」
　　　　　

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